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わかれのじ
別れの辞
豊島 与志雄
「中央公論」1935(昭和10)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页
髪だけきれいになで上げてるのが目立った。私が電話で呼ばれて行った時にも、宮崎は昏々と眠り続けてるばかりだった。眼が更におち凹んで、額から顔へかけて肉附がすっきり……澄んでると思われるほどで、何の苦痛の表情もなく、身動き一つしなかった。呼び迎えられた医者は、長い間その顔を眺めていたが、静に二日も眠らしておけばいいでしょうと、事もなげに云った。宮崎の懐から、カルモチンの錠剤の壜が見出された。常用していたものと見えて、使用の予想量よりもひどく多分にへっていた。清子は何にも云わなかった。徹夜のつもりだったのが、酔って分らなくなったと、それだけきり引出せなかった。宮崎に自殺の意志があったろうとは思えなかった。然し、全然なかったとも、私には断定出来ない。
島村はその晩きり、もう「笹本」に来なかった。私達の間からも、殆んど姿を消した。静葉はやはり芸妓に出ていたが、用事をつけて休むことが多かった。然し、彼等については、また他日物語ることにしよう。随分いろいろなことがあるのだから。