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こくこく
刻々
宮本 百合子
「中央公論」1951(昭和26)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页
病気になってはならない。益々そう思うようになった。
十時頃、冷えのしみとおったうすら寒さと眠たさとでぼっとしているところへ、紺服の陽にやけた労働係が一人の色の白い丸ぽちゃな娘をつれて来た。
「しばらくここにいな」
「房外かね」
「そうだ」
「さ、ねえちゃん、そこへ坐ってくれ。仲間があって淋しくなくていいだろう」
娘は、派手な銘仙の両袖をかき合わせるようにして立っていたが、廊下のゴザの上へ自分と並んで坐り、小さい袋を横においた。むっちりしたきれいな手を膝の上においてうな垂れている。中指に赤い玉の指環がささっている。メリンスの長襦袢の袖口には白と赤とのレースがさっぱりとつけてある。――
程たってから自分は低い声でその娘に聞いた。
「つとめですか?」
「ええ」
「会社?」
「地下鉄なんです」
「……ストアですか?」
「いいえ。――出札」
「…………」
自分は異常な注意をよびおこされてそれきり暫く黙っていた。地下鉄ではついこの三月二十日から三日間従業員約百名内出札の婦人四〇名が参加して地下の引込線を利用して車輌四台を占領し、全国的注意を喚起したストライキをやった。原因は出征従業員を会社側で欠勤扱いにしたことであった。