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こくこく

刻々

宮本 百合子

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页

青空文庫

共青指導部の署名で出された、赤色メーデーを敢行せよ! というビラである。

「そういうものが、こっちの方へ却って早く入るんだから妙でしょう」

狡い、ひひという笑いかたで太い首をすくませた。

「マァ、この懸け声がどの位実現されるか見ものだね」

留置場へ降りがけ、教習室をとおりぬけたら正面の黒板に、

不逞鮮人取締

憲兵隊との連携

と大書してある。

いよいよメーデーだ。警察じゅう一種物々しい緊張に満ちている。非番巡査まで非常召集され顎紐をかけ脚絆をつけた連中が内庭と演武場に充満して佩剣をならしている。

高等室では主任と宿直だけがのこり、署の入口のところに二台大トラックが止って、二人の普通の運転手がその上でだらしなく居睡りをしている。

頻りに電話がかかって来た。

「ハア、ハア、今朝共同印刷へ、明治大学の学生と鮮人労働者が三十人ばかり押しかけましたが……それだけです。ハ、ハ」

或は、

「こちらは異状ありません、ハ? いや何とも云って来ません」

警視庁で全市の警察から情報をあつめているのだ。

丁度上野でデモが解散という刻限、朝から晴れていた空が驟雨模様になって来た。