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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

何か御用で?」

「へい」と云ったが入って来た。

「お貰いに参ったんじゃアございません、お為になろうかと存じましてね。ちょっとお聞かせにあがりましたんで」

「ああ左様で、それはそれは。……お梅さんお梅さん向うへ行っておいで。……さあさあ貴郎遠慮はいらない。おかけなすって、おかけなすって」

「ここで結構でございますよ、実はね親分」と話し出した。

「人殺しがあったんでございますよ」

「へーい、人殺し? それはそれは」

「そいつをあっしは見ていたんで」

「なるほどね、なるほどね」

「あっし達の住居は軒下なんで。どこへでも寝ることが出来ますので」

「自由でよろしゅうございますなあ」

「昨夜寝たのが佐賀町河岸で」

「あああの辺りは景色がいい」

「と、侍が来かかりました」

「ナール、侍がね。……どうしました?」

「と、ムラムラと変な奴が出て、斬ってかかったんでございますよ」

「うむ、うむ、うむ、侍がね」

「と、スポーンと斬ったんで。侍の方が斬ったんで」

「冴えた腕だと見えますねえ」

「引け! というので引いてしまいました。その現われた連中の方が」

「衆寡敵せずの反対で」

「するとどうでしょう、提燈の火だ」