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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

「今朝方箒目をあてたと見え、地面も縁の上も平されている」

口の中での呟きである。

「おや木の枝が折れてるぜ」

たしかに一所木の枝が、無理に乱暴に折り取られている。

「腰でもかけて休もうかい」

――縁へ腰をかけた丁寧松は、後脳を雨戸へ押し付けて、ぼんやり空を眺めたが、どうやら本当はぼんやりと、空を眺めているのではなく、何かを聞き澄ましているのらしい。

「いい天気だなあ、鳥が啼いていらあ」

梢で雀が啼いている。

「宇和島というお侍、高価な物でも持っているのか、人に怨みでも受けているのか、とにかく何者かに狙われているらしい。だから大勢の者に切りかけられたり、贋加賀屋の手代どもに、こんな旅籠へ連れ込まれたり……さあその贋加賀屋の手代の一人が、宇和島という侍の隣り部屋へ、泊まり込んだということだが、そうして今日の明方早く、立去って行ったということだが、こいつがどうにも眉唾物だて」

――番頭の言葉と婢女の言葉、それを綜合して丁寧松は、推理と検討とに耽りだした。

その間も松吉は縁の上などを、こっそり掌で撫でまわした。

「縁の上にひどく砂があるなあ。縁近くの庭で取っ組み合いでもしたら、縁の上へ砂ぐらい刎ね上るだろうよ。