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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

……ところで宇和島という侍だが、この旅籠から消えたとは何ということだ。……二から一引く一残る! これが十呂盤の定法だが、この事件はそうでねえ、二から一引く皆な消えっちゃった! 侍も手代もきえっちゃった。……こんな解らぬ話ってねえ。……ナーニこいつアこうなるのさ。……宇和島というお侍さん、身の危険を感じたので、贋手代を気絶でもさせて、そいつの衣裳をひん剥いて、自分の衣裳の上へ着て――着ふくれていたっていうことだからな――手代に化けてこの旅籠から、脱出して行ったというものさ。……行燈の火が消えたという。案内の女中に化けた姿を、感付かれまいために宇和島という武士が、行燈の側を通る時、袂でも振って消したのさ。……さて疑問として残るのは、衣裳を剥がれた贋手代の、可哀そうな身柄がどこにあるかってことさ……」

この時開けずの間の建物の中から、物の気勢が聞こえてきた。

「いつからともなく柏屋の庭に、開けずの間という建物があって、一切人を内へ入れず、一切人を寄せ付けず、厳に鎮座ましますと、世間の噂に立つようになったが、どう考えてもおかしいよ」

口の中での呟きである。