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ぜんきてんまやけ
前記天満焼
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页
「どだい建物というものは、人が住むために建てるものだ。人の住めない建物なら、さっさと壊すがいいじゃアないか。そんな建物を建てて置く! どうでも二二ンが四じゃアない」
胸の中で珠算をやり出した。
「もっとも」と、これも口の中である。
「お宮と云ったような建物もある。だがもしそいつがお宮なら、神様が住んでいなけりゃアならない。……となすとここの建物にも、神様が住んでいるのかな」
頭が一方へ傾いて行く。ピッタリ片耳が戸へあたる。
「うむ!」と突然丁寧松は、呻の声を洩らしたが、
「やりゃアがったな!」と飛び上った。
「ヤイ!」と怒鳴ったが鋭い声だ。
「殺生な真似をしやアがるな! 丁寧松だ! 見現わしたぞ!」
だがその次の瞬間には、非常な危険を直感した、猟り立てられた獣のように、庭を駆け抜け、主母を駆け抜け、往来へ飛び出してしまったのである。
すると、その時音も立てず、離れ座敷の雨戸が開いたが、その隙間から見えたのは、一人の女の姿であった。身に行衣を纏ってい、左手に御弊を握っている。しかし右手に下げているのは、血に塗られた短刀であった。御弊に仕込まれた懐刀らしい。美しいことも美しいが、その凄さは二倍と云えよう!