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ぜんきてんまやけ
前記天満焼
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页
乞食の上州はニヤリとしたが、
「不景気以上の大飢饉で、どこへお貰いに参りましても、まるで人間の藪蚊のように、相手に致してはくれませんなあ」
云い云い上州は坐り込んだが、妙におかしなところがある。髯こそぼうぼうと生えているが、そうして垢で埋まってはいるが、太い眉に秀でた額、極めて高尚な高い鼻、トホンとした眼付きはしているが、よく見ると充分に知的である。だが口付きは笑殺的で、酸味をさえも帯ている。尋常な乞食とは思われない。
「こいつどうにも怪しいなあ」
――そこは松吉商売柄だ、何か看破をしたらしい。
と、ソロソロと懐中の内へ、右の片手を突っ込んだが、
「私の云ったのはそうではない。お前さんのような由緒のある人を、乞食の身分に落とし入れた、世間のやつらが藪蚊だというので」
「え?」と乞食は眼を据えたが、
「この私が由緒のある。……」
「おい!」
「へい」
「正体を出せ!」
「何で?」と立とうとするところを、
「狢め!」と一喝浴びせかけ、引き出した十手で、ガンと真向を! ……
「あぶねえ」と左へ開いたが、
「御冗談物で、親分さん」
「まだか!」
懐中の縄を飛ばせた。
「どうだァーッ」