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ぜんきてんまやけ
前記天満焼
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页
「素晴らしいなあ」と岡引の松吉は、心から感嘆したように、ドカリと草の間へ胡座を掻くと、
「ゆっくり話をいたしましょう」
「へい、それでは」と上州という乞食も、並んで側へ腰を下ろしたが、しばらく物を云わなかった。
二人ながら黙っているのである。
いぜんとして耕地には人影がなく、ひっそりとして物寂しく、日ばかりが野面を照らしている。
と、一所影が射した。雲が渡って行ったのだろう。
都――わけても両国の空は、ドンよりとして煙っている。
砂塵が上っているのだろう。
乞食はそっちを見ていたが、ふっとばかりに呟いた。
「今夜あたり起こるでございましょうよ。恐ろしい恐ろしい騒動が」
「ほほう」と云ったものの松吉は、どういう意味だか解らなかった。
「何が起こると有仰るので!」
丁寧な言葉で訊き出した。
「私は乞食でございますよ」
「まあね、そりゃア、そうかも知れない。……それがどうしたと仰有るので?」
「で、江戸中をほっついています」
「私の商売と似ていまさあ」
「私の方がもっともっと、露地や裏店に縁故があります」
「そうして私にゃア悪党がね」
「どっちみち浮世の底の方に、縁故があるというもので」