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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

心付を渡して草履を突っかけた。

「源女さんのお部屋は一番奥で」

「そうかい」と浪之助は歩いて行った。

書割だの大道具だのが積み重ねてある、黴臭い薄暗い舞台裏を通り、並んでいる部屋々々の暖簾の前を通り、一番奥の部屋の前へ立った。

長い暖簾を掲げて入った。

衣装籠に寄りかかりながら、裃をさえ取ろうともせず、源女はグッタリと坐っていた。

「お組、わしだ」と浪之助は云った。

と、源女は閉じていた眼を、さもだるそうに細目をあけたが、

「浪之助様。……存じて居りました」

そう云ってまたも眼をとじた。

衰弱していると云ってもよく、冷淡であると云ってもよい、極めて素気ない態度であった。

立ったまま坐りもせず、そういう昔の恋人の、源女の様子を眺めながら、浪之助は意外さと寂しさと、多少の怒りとを心に感じた。

3

「知っていたとは? ……何を知って?」

「桟敷にお居でなされましたことを」

眼をとじたまま云うのであった。

「では舞台で観ていたのか」

「ええ」と源女は眼をあけた。

「浪之助様がお居でになる。――そう思って見て居りました」

「ふむ」と浪之助は鼻で云った。

「ただそれだけか。え、お組」