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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

「この騒動で驚いたか」

「それで物陰にかくれていると、この夜廻りが六尺棒でお前の足を払おうとしたので……」

「飛び出してグッサリ横ッ腹をか」

「とんだ殺生をしてしまったのさ」

「お蔭で俺は助かった」

「わたしゃアお前の命の恩人、これから粗末にしなさんな」

「と早速恩にかけか」

「かけてもよかろう礼を云いな」

「いずれゆっくりと云うとしよう」

「そのゆっくりが不可ないねえ」

「そうだ、ゆっくりは禁物だ。……どうともして早くここを遁れ。……しかし八方取りまかれてしまった」

「いいことがある、姿を変えな」

「姿を変えろ? どうするのだ?」

「夜廻りの野郎の衣装を剥ぎ……」

「成程こいつア妙案だ」

物陰にズルズルと夜廻りの躰を、陣十郎は引っ込んで、自分も物陰へ隠れたが、出て来た時には陣十郎の姿は、武士から夜廻りに変わっていた。大小は脇腹へ呑んだと見え、鍔の形だけふくらんで見えた。

「さてこうやって頬冠りをし、お前という女と手を取り合ったら、ドサクサまぎれの駈落者と、こう見られまいものでもないの」

「あたしゃアちょっと役不足さ」

「贅を云うな。……さあ行こう」

歩き出したところへ四五人の武士が、警め合いながら近寄って来た。