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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

敵討の旅

1

これが大変悪かった。

はじめのうちは陣十郎も、猫を冠って神妙にしていたが、次第に本性を現わして、出ては飲み、飲んでは酔って帰り、酔って帰っては武芸の自慢をし、庄右衛門や主水の剣法を、児戯に等しいと嘲ったり、不頼漢らしい風儀の悪い男女をしげしげ邸へ出入させたり、そのうち娘の澄江に対して横恋慕の魔手を出しはじめた。

澄江は庄右衛門の実の娘ではなく、一人子の主水と配妻わす目的で、幼児から養って来た娘であり、この頃庄右衛門は隠居届けを出し、主水と澄江とを婚礼させ、主水を代わりに御前へ出そうと、心組んでいた折柄だったので、陣十郎の横恋慕は、家内一般から顰蹙された。

自然冷遇されるようになった。

冷遇されるに従って、いよいよ陣十郎は柄を悪くし、ますます庄右衛門や主水の剣法を、口穢く罵った。そこでとうとう腹に据えかね、あの日庄右衛門は庭へ下り立ち、陣十郎と立ち合った。立ち合って見て庄右衛門は、広言以上に陣十郎の剣法が、物凄いものであることを知り、内心胆を冷やしたが、娘の澄江が仲に入ったため、意外にも陣十郎から勝を譲られた。しかし庄右衛門は考えた。この恐るべき悪剣法者を、このまま屋敷にとめ置いては、我家のためになるまいと。