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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

出たいという考えが、濃く強くあるのであった。

主水としても拒絶はしたものの、実は一緒に旅へ出てもよい、なろうことなら一緒に行きたいと、そう思っているのであった。行く行くは夫婦になる二人である、その一人を家へ残して置いて、帰期の知れない旅へ出る、幸い敵に巡り合っても、返り討ちにならないものでもない、そういう旅へ出て行くことは、心にかかる限りである。二人一緒に行ったなら、苦しい時にも悲しい時にも、分け合って慰め合えるではないか。足手まといになるどころか、妹は小太刀ではかなりの使い手、現にあの夜あんな場合に、簪を抜いて男の急所、陣十郎の足の甲を突いて、急難を免がれたほどである。敵陣十郎はどうかというに、甲源一刀流では剣鬼のような使い手、自分のように新影流で、ようやく仮免許を受けたような者とは、段違いの名人である。自分一人では討つに難い、せめて妹が側にあれば――だから一緒に旅に行きたい、そう願っているのであったが、一藩の者からうしろ指をさされ、あれ見よ鴫澤主水こそは、親の敵を一人では討てず、女手を借りたわと云われることが、心外なことに思われて、断行することが出来なくなったのであった。