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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

……見ればお前さんも朝帰りらしいが、上尾へでも行ったのかえ」

「うむ」と猪之松は苦い顔をし、当惑らしくそう云ったが、

「実は俺らもその通り、上尾へ行って遊んだが、面白くもねえ待遇を受け、業を湧かしての帰り道さ。いやすっかり懲りてしまった」

「あんまり懲りてもいないようだが……そうしてどこへ上ったのかな?」

「楼か、楼は、ええと笹屋だ」

「へえ、こいつは面妖だな。俺らの上ったのも笹屋だが、お前さんの噂は聞かなかったぜ」

「はてな、それじゃア違ったかな」

「大違いの真ン中だろう。……まあそんなことはどうでもいい。そこで高萩の相談がある。聞けばお前さんは小川宿の、逸見多四郎先生の、直弟子で素晴らしい手並とのこと、以前から一度立合って、教えを受けたいと思っていた。ここで逢ったは何より幸い、あまり人通りも無さそうだから、迷惑だろうが立合ってくれ」

「ナニ立合え? ……剣術の試合か?」

「それも是非とも真剣で」

「真剣勝負?」

「命の遣り取り!」

「…………」

猪之松は無言で眼を見張った。

しかし心では考えた。

(お山との関係を知ったらしい。そのお山だがこっちから手を出し、横取りしたというのではない。