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かご
加護
宮本 百合子
「大阪毎日新聞(夕刊)」1920(大正9)年8月17日~28日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,147 字 · 33 页
強て落付きを保とうとするお恵さんの声は、自ずとこみ上げて来る歔欷(すすりなき)に怪しく掻き乱された。
「あなたに――あなたまでがそんなことをおっしゃるかと思うと……」
肩を震わせて二つの袂の中に泣き崩れたお恵さんは、やがて頭を擡げると、良人の遺骸の枕許にぴったりと寄添って、切れそうに唇を噛みしめながら、静かに新しい線香に火を移した。
「ほんとにまあ何ということを云ってのけたものだろう」
あの恥と憤りとに火のように燃えて自分を見た二の眼を思い出しただけで、お幾は今だに体の竦む思いがした。
たとい、云い廻しの不十分から起った誤解だとは云いながら、場合が場合だけに、お幾は自分をよしとする如何なる口実も見出せなかった。
馬鹿な自分、間抜けな自分、彼女は自分の手に喰いつきたいほど、その失言を悔い悩んだ。
若し自分がお恵さんだったらどうだったろう。きっと相手の顔をぴっしゃり打ちかねず怒ったに違いない。
それから後殆ど日参するようにして、ようよう心の解けた今は、もう一つの淋しい笑話となってはいても、何かの折にお恵さんの顔を見ると、そのことを思い出さずにはいられない。