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べんきょうき

勉強記

坂口 安吾

「文体 第二巻第五号(五月増大号)」1939(昭和14)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,952 字 · 36 页

青空文庫

梵語と巴利語の講座であった。ところが栗栖按吉が何より情熱傾けてこの講座へせっせと通う。調べてみると、一日に七八時間も文法書をひっくりかえしたり辞書をめくっているという話なのである。梵語の先生は大変心のやさしい方であった。新学期の第一日新入生を大変やさしくにこにこ見渡して(この時だけは一同出席していた)梵語というものは何年おやりになっても決してうだつの上らないものでございます、と仰有るのである。四五年前大変熱心に勉強なすったお方がありまして、今もって私のところへここはどうだ、これは何だ、とおききにいらっしゃいます。この方は日がな一日梵語の勉強をなすっていらっしゃる、ところが梵語は辞書をひけるまでがまず一苦労、却々探す単語がおいそれと辞書から顔を出しません。いやはや梵語学者と申しましても、みんなそれぞれ怪しいものでございます、と仰有るのである。だからもう決して無理に梵語の勉強をおすすめは致しませんと、大変やさしく親切に言葉をつくして仰有るのだった。これでも梵語に出席しようという奴は、馬鹿でなければ礼節を知らない無頼漢のひとりであるに相違ない。

けれども先生はやさしい心のお方だから、二学期になったというのに、まだひとり生徒が出席していても、決してお怒りにならないのだった。