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きたのふゆ
北の冬
小川 未明
「新小説」1908(明治41)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,166 字 · 11 页
普通の者は迚も、この広い野原を歩けない。勿論道の付いている筈がなし、北西の風を真面に受けて、雪が目口に入って一足も踏み出せるものでない。
やはり三つの提燈は東南の村の口から入って来て、野原を通って何処へか消えてしまった。
「や、厭な提燈だぞよ。」と一人がいった。
「物凄い赤い燈火だな。」といった者もある。
「あれは人魂だ。」といった者もあった。
けれどその夜は、それで寝てしまった。明る日村の某々等は互に語り合った。
「あの、提燈は何処へ消えるだろう。」と一人がいった。
「さあ、何処へ消えるか……。」
「池ではないか。」
「一つ今夜は見届けようじゃねえか。」
と相談が纏った。某々等は例の爺さんの小舎に集って、その時刻の来るのを待っていた。その夜は珍らしく雪が晴れて、雲間から淋しい冬の月が洩れている……一望漠々たる広野の積雪は、寒い冴えた月の光りを帯んで薄青く輝いていた。
「非常に寒い晩だな。」と一人がいう。
やがて、身を切るような木枯が野を横切って、暫時その音が止むと、一人は、
「見えた見えた。」と村の端の入口を指した。
三つの赤い、後光のない燈火が、村の中へ入って来た。