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きただけとあさひだけ

北岳と朝日岳

木暮 理太郎

「改造」1929(昭和4)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,121 字 · 16 页

青空文庫

で、せめて上河内から穂高へ登る可きであった。このことは島々で勧められたのであるが、それ程の山なら御岳から見えぬ筈もなかろうし、且又『風景論』にも記載が欠けていたのでさして気にも止めなかったのは、何と笑われても致方ない失策であった。

槍ヶ岳の登山が阻まれたので、大野川から乗鞍岳に登り、再び御岳を攀じ、寝覚から駒ヶ岳に登って、玉窪の小屋に一泊し、宮田に下り、三峰川に沿うて高遠に至り、更に黒川を遡りて、忘れもせぬ八月十八日、暴風雨を突いて戸台から甲斐駒に登った。頂上に着いたのは午後四時頃であったろう。北寄りの大きな岩蔭に測量部員の滞在している小屋があって、其処に泊めて貰えたのは有り難かった。

夜が明けても風は収まらず、曇った空からは未だ雨が落ちていた。然し雲は高いので割合に眺望は広い。地蔵岳の上にはっきりと富士の姿も眺められる。南方は間近い山の巓に屯した一団の乱雲に遠望を遮られていたが、其雲が次第に消え去ると、水浅黄に澄んだ晴空が顕れて、其処に雄渾極りなき一座の山の姿が劃然と描き出された。思い切り左右に張った肩の弾力ある線のうねり、まるでピンと張った弦のようにはち切れそうな力が籠っている。