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きただけとあさひだけ
北岳と朝日岳
木暮 理太郎
「改造」1929(昭和4)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,121 字 · 16 页
ここに泊れと勧められていたが、未だ正午にもならないし、この調子なら広河原まで行かれぬこともあるまいと用意の昼飯を済して、河に沿うた道を急ぎ下った。危険な所には針金が張ってあり、路も修繕が行き届いているので、二ヶ所ばかり浅い徒渉をした外には記憶に残る程の出来事もなく、夕方広河原の小屋に着いてしまった。途中二、三の小屋もあり又四、五人の岩魚釣りも見掛けた、これは或は小屋の番人達の慰であったかも知れない。
広河原の小屋には老人が二人残っていた。明日芦安に帰るという老人の一人は、二度北岳に登っているそうで、今一日早く来れば、わしが案内して上げたに、惜しいことをしたというので、もう一日帰りを延して明日案内して貰えまいかと持ち掛けて見る。今日帰る筈の所を一日延したので、明日はどうでも帰らなければならぬという。止むなく路筋の模様を詳しく聞いた上、半紙に略図を描いて貰った。
翌朝は漸く足元の明るくなった頃に小屋を立って、教えられた沢を遡った。老人は沢の入口まで送って来て、別れ際に、お池からの上りが分りにくいと思うから気を付けるようにと注意する。そして薄曇りの空模様を眺めながら、独り言のように昼から雨にならねばよいがと呟く。