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きたむらとうこくのみじかきいっしょう

北村透谷の短き一生

島崎 藤村

「文章世界」1912(大正1)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,267 字 · 17 页

青空文庫

それから、麻布霞町の方へ移って、山羊なぞを飼って見た事もあったが、これには余程詩人風の空想が混っていた。星野天知君は、その後鎌倉の方へ引き込まれた北村君から、その山羊を引き取った事がある。そして「どうも北村君には一杯嵌められました。子供をお腹に持っているというから、その積りで引き取ったら、子供があるんではなかった」と私に話して、笑った事があった。北村君は又芝公園へ移ったが、其処は紅葉館の裏手に方る処で、土地が高く樹木が欝蒼とした具合が、北村君の性質によく協ったという事は、書いたものの中にも出ている。あの芝公園の家は余程気に入ったものと見えて、彼処で書いたものの中には、懐しみの多いものが沢山出来た。『星夜』というものを書いたのもあの林の中だ。短い冥想の記録のようなもので、彼処で書いたものには、私の好きなものが沢山ある。意地の悪い鳥が来て高い梢の上で啼くのを聞いて、皮肉屋というものが、文壇にばかりいると思ったら、こんな処にもいた、というような事を書きつけた事があったが、斯ういう軽い気分を持つ事が出来たほど、彼処の住居は楽しかったのであろうと思う。彼処から奥州の方へ旅をして、帰って来て、『松島に於て芭蕉翁を読む』