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オチフルイかいじゅうろうてがらばなし

十二神貝十郎手柄話

国枝 史郎

国枝史郎『十二神貝十郎手柄話』。同一底本的分册已合并为一书。收入:十二神貝十郎手柄話、加利福尼亜の宝島。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 127,035 字 · 254 页

青空文庫

非常に利きます! 一粒飲めば胸もとが躍る、二粒飲めばこめかみに汗、三粒飲めばワクワクする。四粒五粒と飲んで行くうちに、悉皆我慢が出来なくなる。さて一袋飲んだとする、この世がかの世か、かの世がこの世か、見境いのないことになり、うっちゃって置けば鼻血が出る。捨てっ放なしにして置けば、……もうこの後は云われない。……やッ」

とにわかに藤兵衛は云って、一方へ眼を走らせた。それからまたも喋舌り出した。

「ご大層もない人がお立ち寄りなされた! この節世上にお噂の高い『館林様』がお立ち寄りなされた! 深編笠、無紋のお羽織、紫柄のお腰の物、黙って道を歩かれても、威厳で人が左右へ除ける! お供はいつもお一人で……おやいけない、行っておしまいなさる!」

「館林様? ふうん、そうか」

公孫樹の蔭に佇んでいた、十二神貝十郎は呟きながら、右手の方へ眼をやった。

いかさま深い編笠を冠り、黒の衣裳に無紋の羽織、紫の紐で柄を巻いたきゃしゃな大小を穏かに差し、袴なしの着流しで、塗り下駄を穿いた二十八、九歳の、貴人のように威厳のある武士が三十五、六の大兵の武士を、後に従えて人の群から離れ、町の方へ静かに歩きつつあった。