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じゅうえんさつ

十円札

芥川 竜之介

穷得叮当响的作家堀川保吉,口袋里只剩六十钱,却还惦记丝帽、音乐会和女人。一张十円钞票的出现,能让他体面地撑过这一天吗?

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,647 字 · 18 页

青空文庫

今朝よりも一層痛切に、――しかし今朝よりも憂鬱にではない。今朝はただ金のないことを不愉快に思うばかりだった。けれども今はそのほかにもこの一枚の十円札を返さなければならぬと云う道徳的興奮を感じている。道徳的?――保吉は思わず顔をしかめた。いや、断じて道徳的ではない。彼はただ粟野さんの前に彼自身の威厳を保ちたいのである。もっとも威厳を保つ所以は借りた金を返すよりほかに存在しないと云う訣ではない。もし粟野さんも芸術を、――少くとも文芸を愛したとすれば、作家堀川保吉は一篇の傑作を著わすことに威厳を保とうと試みたであろう。もしまた粟野さんも我々のように一介の語学者にほかならなかったとすれば、教師堀川保吉は語学的素養を示すことに威厳を保つことも出来たはずである。が、芸術に興味のない、語学的天才たる粟野さんの前にはどちらも通用するはずはない。すると保吉は厭でも応でも社会人たる威厳を保たなければならぬ。即ち借りた金を返さなければならぬ。こう云う手数をかけてまでも、無理に威厳を保とうとするのはあるいは滑稽に聞えるかも知れない。しかし彼はどう云う訣か、誰よりも特に粟野さんの前に、――あの金縁の近眼鏡をかけた、幾分か猫背の老紳士の前に彼自身の威厳を保ちたいのである。