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じゅうばんざっき

十番雑記

岡本 綺堂

「思ひ出草」相模書房、1937(昭和12)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,745 字 · 16 页

青空文庫

以上の三種が自分の作として、得意の物であるか不得意の物であるかを考えている暇はない。わたしは焼跡の灰の中から自分の財を拾い出したように感じたのであった。

「お正月から芝居がはじまる……。左団次が出る……」と、そこらに群がっている人の口々から、一種の待つある如きさざめきが伝えられている。

わたしは愉快にそれを聴いた。わたしもそれを待っているのである。少年時代のむかしに復って、春を待つという若やいだ心がわたしの胸に浮き立った。幸か不幸か、これも震災の賜物である。

「いや、まだほかにもある。」

こう気が注いて、わたしは劇場の前を離れた。横町はまだ滑りそうに凍っているその細い路を、わたしの下駄はかちかちと蹈んで急いだ。家へ帰ると、すぐに書斎の戸棚から古いバスケットを取出した。

震災の当時、蔵書も原稿もみな焼かれてしまったのであるが、それでもいよいよ立退くという間際に、書斎の戸棚の片隅に押込んである雑誌や新聞の切抜きを手あたり次第にバスケットへつかみ込んで出た。それから紀尾井町、目白、麻布と転々する間に、そのバスケットの底を叮嚀に調べてみる気も起らなかったが、麻布に一先ず落ちついて、はじめてそれを検査すると、幾束かの切抜きがあらわれた。