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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

下で主婦とここいらの地価の話をして居た母親は笑いながら下から上って来た。

「おや何を書いたんだえ」

「Hさんのところへ――阿母さんよんで見て何か御書きんならなくっちゃあならないんなら書いて下さいナ花のしぼまない内に出したいんだから……」

「Hさんとこへなんか手紙なんか出さずともいいじゃあないかわけもないのに――それに先達ってこっちに来るとすぐ葉書を出したのにうんともすんとも云って来やしないじゃあないか、だものそんなにしずとも……」

「何にも返事が欲しくて書くんじゃあありませんわ、書きたくなったから書いたまでの事なんですもの」

「一体男なんかに手紙をやるなんて事は不賛成なのさ」

「ちゃんと書いたものはお見せするしそうして出すんなら何にもわるい事じゃないじゃあありませんか、御まけに阿母さんの名まで自筆で書くんじゃあありませんか……」

「そりゃあそうでもネとかく……」

「何ぼなんだってあぶり出しの手紙なんか書きません」

千世子はこんな事を云いながら何故私達はこんな一本の手紙なんかでこんなにさわいで居なくっちゃあならないんだろうと思った。

「下らない事だ!」

フッと頭の中をそういう閃きの通って行ったあとすぐ「阿母さんは私が出すのをいいと云おうか悪いと云おうか迷っていらっしゃるんでしょう、もしいいんならここに名をかくんなりウンと云う