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ちよこ
千世子
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页
「今になると家の中にジッとして居た方がよかった様にも思われます。同じ宿にとまって居る人達を観察するでもなし、割合に無駄な時間を多く費したんですものネエ」
「それがいいんですよ。だからごらんなさい、顔だって赤くなって居るし目だって丈夫そうになって居ますよ」
Hさんは熱心に千世子の顔を見つめながら云った。千世子はHさんと源さんの手を自分の両手にもって肩位までの高さにあげたり下げたりして居た。意味もなくこんな事をしてはしゃぐほど千世子はゆとりのある心になって居た。
その翌々日から千世子は学校に行った。どの教師も又どの友達も、
「マア、貴方いらしったの」
とか、
「マア久しぶりですネエよく来ました」
とか云われた。
そうしてその日っから毎日毎日元気らしく、時には寝不足な青い顔もしながら学校に通って居た。
Hは一日おき位にはキッと来た。六時すぎ頃から来て更けるまで話すと云う事はここの家の習慣の様になってしまった。
Hの来た時はいつも十一時半にかえって行くのがきまりだった、その十一時半を家の人達は定刻と云って居た。千世子が小田原から帰ってから五ヵ月の時はかなり早く大した変った事も生まないで立って行った。