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ちよこ
千世子
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页
頭がぽっぽっとして来て体が宙にういて行く様になった。
「今日は悪い時候なんでしょうか、私頭の工合が大変妙になって来ました」
「私のした話の皮肉を云っていらっしゃるんでしょう」
「そんな気じゃあないんです。頭を押えて御らんなさい、熱くなってましょう、ほんとうの事なんですもの」
「そうですか、どうしたんでしょう」
Hはしずかに部屋の中を歩き廻った。
時にかるい小さなせきばらいをしたり、とまって見ては千世子のなやましそうに又我ままそうな様子をして居るのを見た。
「貴方って方は何でもあけっぱなしに云わない方ですネエ、娘の様に――」
千世子は胸のところにこみあげて来るかたまりをおし下しおし下しして云った。
「エエそう云う風にしなくっちゃあならないから……」
千世子の前に立ったHは千世子が涙をこぼして居るのを見た、Hの自分の目からもわけもなく涙がこぼれそうになった。
「大変ヒステリックになっていらっしゃる――」
こう云っただけであった。そうして千世子の前の椅子に腰を下して千世子の赤い輝いた瞳を見つめた。
「私今ネ、フッとやたらに貴方が可哀そうになったんですの、そしたらすぐ涙が出ちゃったんですの、ただそれだけ……」