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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

いつもすんだ晴れた声で丸く話をすることや、どこのこまっかい皮膚にでも男に有りがちのあぶらっこい光りをもって居ない事等が千世子が特別にうれしく思う事だった。

Hがとまる様になってから母親の一層注意深くなったのは千世子も知ったけれ共、別に気にもせず自分は自分でする丈の事をすると云った様な調子に暮した。

暮に近くなってから千世子の書いて居るものも半分ほどになったけれ共どうしても言葉つきや、みなぎって居る気分やらが千世子を満足させることは出来なかった。

見れば見るほどあらが出てもう見向くのもいやになってしまってからは毎日毎日わだかまりのある様な、笑いながらもフッと思い込む様な様子をして居た。

「貴方がいらっしゃるんで思う様にかけないんですよ」

とか、

「私もうほんとうに涙がこぼれそうですわ、貴方が居らっしゃるから出来ないなんていくじなしじゃないはずなんだけれ共……」

なんかと沢山な書きくずしの中に頬杖をついていらいらしたとんがり声で云ったりした。

「今日は夜になるまで御会いしますまいねえ、そいで一生懸命書くんです」

うすら寒い茶室にとじこもって経机の上で書いて居たりするのもその頃だった。