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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

「阿母さん安心してらっしゃい大丈夫ですよ、そんな事は!」

千世子は笑いながら云った。

「アアまあとにかく着物御きかえよ炬燵にかけて置く様に云ったからしてあるだろう?」

「エエ、じゃきかえましょう。もう今日はどっからも電話なんかかけてよこさないでしょうネ、来たってことわるんだからかまわないけど……」

千世子が独りごと云う間に母親はせっせと裏衿をつけて居た。フックリとあったかい着物を着て部屋にとじこもってかって来た本を赤い線を引き引き読んで行った。

夕方飯田町の叔母のところから電話で、今夜病院の人達をよぶから手伝うつもりで来てくれと云ってよこした。気のすすまない千世子に無理やりに髪を結わせて一番似合う紺の縞のお召をきせて車にのせて母は出してやった。

(四)

三十分も車にゆられて向うへついた時上り口には男下駄がいっぱいならんで居た。広間の方からはかっちまりのない男特有の笑声がくずれる様に起って来る中に、叔母のビードロ玉の様にすき通る声がきわだってきこえた。茶の間から足音をきいて出てきたばあやは「マアようこそ」と云って顔を見た眼で一文字にうら袖の色までねめまわして、「皆さまお待ちかねでございますよ早くあちらへ、サア」