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ちよこ

千世子

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年11月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 83,104 字 · 164 页

青空文庫

千世子は愚な民をその白い手で征服して居る女王の様な又いくじない動物達の群の中を胸をはって進む女獅子か女豹の様なかがやかしいおごった気持になった。

男達が自分をふざけさせて見たくってしようがないで居ると云う事を千世子は知って居る。一人の男は千世子をくすぐろうとしてつねられ、一人はわざと自分からつきあたって行ったくせにしりもちをついた。何故男なんて云うものはこんな時にうんざりするほどふざけたがるもんなんだろう。

千世子は男と云うものの一番みっともないところをさらけ出された様な不快な気持になった。そして思うともなくHのあの高く澄んだ額やしっかりしたくびの筋肉と丸い声を思った。

十時一寸過ぎ頃千世子はたまらなくなって帰ると云い出した。叔母がとめてもきかなかったものをあんな男達が何と云ったってもとよりとまると云うはずもなく、白い毛のボーアを富げに巻いて黒い手袋をはめて千世子は敷石の上に一っぱいにかがやいて居る草履をはいた。男達はお互によりかかりあいながら見送りに出た。車にのってから、

「皆さんさようなら」

お義理に声だけを笑った様に千世子は云った。

「御かげで大変愉快でした」