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ちよじのおどろき

千代次の驚き

豊島 与志雄

「文学界」1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,413 字 · 19 页

青空文庫

も嫌だと、投げやりな気持になって、村尾さんをむりに引止める力もなくなりました。そして酔ったふりをして、半分はほんとに酔って、つっぷしながら、村尾さんのあぶなっかしい足音をぼんやり聞きながしました。

それでも、きっとまた戻っていらっしゃるにちがいない、と心待ちにして、立上りもしないでいると、おのぶさんがやって来て、けんかでもしたの、と心配そうにきくんです。あたしうるさくなったから、村尾さんはまた戻っていらっしゃる筈だから、きっと引止めて、すぐに電話を下さい、とそう頼んで、ほかへ廻りました。賑かな、ばか騒ぎがすきなかたです。お酌さんを交えて三四人で、騒いでいましたが、やっぱり心が沈みがちで、村尾さんのことが気になって仕方がありませんでした。いくら飲んでも、頭のしんからさめていきます。一時すぎになって、喜久本に電話してみると、村尾さんはいらっしゃらないとのこと。なお気になって、そのままもらって、外に出ましたが、足もとがふらついてるのに、頭のしんがさえて、震えあがるような寒けがしました。そしてどこへ行っていいか分らないような気持になって、いつのまにか泣きだして、家の近くをぼんやり歩いていました。