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ちよじのおどろき

千代次の驚き

豊島 与志雄

「文学界」1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,413 字 · 19 页

青空文庫

男という男は、みんな、うわべはいろいろだけれど、心底は同じものだと、あたしにも分ってきました。だからあたし、どんな人も、ほんとに好きにはならないと、そう決心していました。村尾さんだって、そうです。決して好きになったわけじゃありません。ただ少し、気懸りにはなっていましたが……。

それも、近い頃のことです。あの方のお母さんが亡くなられて、百ヶ日もたってからだったでしょう、急に、しげしげいらっしゃるようになり、しまいには、いつづけなさることさえありました。

「僕はどうせ、病気で死にかかって、危く拾いものをした命だし、母親も見送って、気にかかる者もないし、これからの生涯をどんなにぞんざいに使おうとかまわない。実にさっぱりした気持だ。」

そうかと思うと、また――

「ねえ、千代ちゃん、もしもの時には一緒に死んでくれないか。君と一緒なら、僕はいつでも死ぬ用意をしてるよ。」

そんなのが、酒の上での他愛のない調子で、にこにこ笑っていらっしゃるんだから、ちっとも張合がありませんでした。けれど、その裏に、何だか気になるものがありました。何だろうかと、あたしさんざん考えたあげく、お金のことらしいと思いました。