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ちよじのおどろき

千代次の驚き

豊島 与志雄

「文学界」1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,413 字 · 19 页

青空文庫

以前は、お金がほしいとか、僕はとても貧乏だとか、そんなことをしきりに云っていらしたのが、ぷっつりと、お金のことは口になさらないんです。それとなくさぐりをいれてみると、中江さんから少し用だてて貰ったとか、母の貯金が残っていたとか、ぼんやりした話でしたが、あたしには、まだそのほかに何かあるような気がしました。それに、何かにつけて、あたしと依田さんとの仲をしきりに気にしていられるようでした。依田さんとはあたし、初めから何でもなかったし、その頃はもうあまりお目にもかかっていなかったから、笑ってすましましたが、その依田さんと云うのが、実は、村尾さんの勤めていらるる会社の社長なんです。そうしたわけで、これは何か、会社の金に関係がありはすまいかと、そんな想像をして、心配になってきました。いくらこちらは商売でも、もしもあたしのためにそんなことでもあったら、ほんとにお気の毒です。けれど、その頃村尾さんは至って鷹揚で、お出先の勘定もちゃんとなすってるし、何かといってはあたしにお小遣も下さるし、お盆の時なんか、まとまって助けてもらいました。

「こんなことを、僕からしていいかどうか分らないが、もしお差支えがあったら止めるし、そうでなかったら、してあげよう。