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ちはやかんのめいろ
千早館の迷路
海野 十三
「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页
その屋形船に乗合っている男女の頭を一つ一つさぐっているうちに、短冊を持って笑っている烏帽子男の首が、すこしぐらぐらしているのを発見した。これだなと思い、その首を指で摘まんであちこちへ押してみるうちに、首は突然楽に壁の中に引込んだ。
「あっ、先生。壁が……」
春部が帆村の腕に縋りついた。見るとすぐ傍の壁が煉瓦を積んだなりに、寄木細工を外すようにその一部が引込んで行く。あとには高さ六尺ばかり、人の通れるような穴が明いた。と、内部から響き来る異様な音響が、二人の耳を突いた。それはリズムを持っていることが分った。
「あ、音楽だ。あなたが朝聞いたのはあれでしたか」
「ああ、そうです。あの曲は田川の作曲したものですわ。“銃刑場の壁の後の交響楽”」
「カズ子さん、入りましょう。その穴の中へ入るのです」
帆村は春部を左腕で抱き、壁穴を中へ飛び越えた。急いであたりを見廻わすと、そこは天井の高い、曲面の壁をもったがらんとした部屋だった。……ぱたんと音がして、部屋の中が闇となった。二人の背後に、壁穴が閉じたのである。
春部は、力一杯帆村に獅噛みついた。帆村の指先に力がぐっと入ったのが春部に分った。