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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

無気味な、銃刑場の壁の後の曲が、化け蝙蝠のように暗黒の空間を跳ねまわる。――と、その部屋が、薄桃色の微かな光線で照明されているのが、二人に分った。闇に目が慣れたせいであった。

「どこでしょう、あの音楽を鳴らしているのは……」

春部が声を忍んで、帆村に話しかけた。

「地の底から聞えて来るようですね。あなたは感じませんか、足の裏から振動が匐いあがって来る」

「ええッ……」

春部は愕いて帆村の胴中を両腕で締めた。足が慄えている。

「ふしぎだ。いよいよふしぎだ」

帆村の声が、別人のように皺枯れた。

「えッ、何がふしぎ……」

「さっきあなたも塀の外で見たでしょうが、この建物への電気供給は断たれている。それにも拘らず、ほらあの通り、薄赤い光で照明されており、それから電気蓄音器も鳴っている……」

「あれはこの館の中で演奏しているんじゃないんですの」

春部にとっては、その方が気懸りだった。田川がこれに幽閉されて、あの奏楽を指揮しているのではなかろうか。

「ふしぎだ。この建物の中には暖房設備があって、部屋を温めている。煙突一つ見えず、もちろん煙もあがっていなかったのに。……すると電気暖房かな。