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ちはやかんのめいろ
千早館の迷路
海野 十三
「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页
その八幡の藪しらずというのがこの迷路なんですよ。待って下さい。思い出しかけたことがある……」
と、帆村はそこで暫く薄あかりの中に沈思していたが、やがて元気を加えて語り出した。
「むかし古神君は、迷路の研究に耽っていましたよ。彼は主に洋書を猟って、世界各国の迷路の平面図を集めていましたが、その数が百に達したといって悦んで私たちにも見せました。……この千早館の中に迷路があるのは、だからふしぎではない。が、早く知りたいのは、彼がどんな迷路を設計したかということです。さあ、先へ進んでみましょう」
「ええ」
「あ、ちょっと待って下さい。迷路を行くには定跡がある。これはあなたにお願いしたい。春部さん。あなたの左手は自由になるでしょう。その左手で、このチョークを持って、これから通る左側の壁の上に線をつけていって下さい。必ず守らなければならないことは、チョークを絶対に壁から離さないことです。いいですか」
そういって帆村は、ポケットの奥から取出したチョークを手渡した。それは緑色の夜光チョークというやつであった。
「なぜそんなことをしなければならないんですか」
「迷路に迷わないためです。