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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

(田鶴子の声だ!)

帆村はすかさず返事をした。

「へい、遅くなりやして……」

「仕様がないね。あたしが替りに怒られているのよ。早く謝ってよ」

「へいへい。――どうぞお手をおあげ下さい」

と、帆村はピストルを構えてカーテンの脇からぬっと入ったものの、彼は危く気が遠くなるところだった。その場の異様な光景! いや、世にも恐ろしき舞台面だ!

大きな純白の絹を伸べたベッドがある。そこに上半身を起している死神のような顔をした痩せ衰えた男。それと、その横に寄り添っている凄艶なる女性――それこそ田鶴子に違いなかったが、気味の悪い死神のような病人は何者?

田川勇ではない。

帆村のピストルが見えぬか、二人の男女は平然としている。男の手にあるシャンパン用の硝子盃へ、女は銀色の大きな容器から血のように真赤な酒をつぐ。

男はその盃を目の高さにあげて透して見てにやりと笑う。盃は紫色の唇へ近づく。ごくり、ごくりと、うまそうに呑み終わって、死神男は盃を唇から放すを、傍なる女は白いあらわな腕をさし出して盃を受け取る。死神男の感にたえたという舌打――突然その男が、皺枯れた声を張り上げた。