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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

「おい帆村荘六……」

その声音に、帆村はぶるっと慄えた。

「……わしの臨終に、間に合うように来てくれたか。しかしピストルとは無風流な……」

「おお、古神行基か」

「そう……今気がついたのか。ひっひっひっひっ」

「君はまだ生きていたのか」

「……設計どおり人は揃った。カズという名の女人、こっちへお入り……」

「入っちゃいけない」

帆村はカーテンの蔭へ叫んだ。

「ひっひっひっ。帆村荘六、何をいうか。……あっ、もう迎えだ。地獄へのお迎え……吸血鬼がひとり消える。さらば……」

「あなた!」

生きていた古神行基が、ばったり前へのめるのに打重って田鶴子は激しく嗚咽する。

帆村はいつの間にかピストルをポケットに収って、旧友の亡骸に向って合掌していた。

こうして七人の青年の血を啜った吸血鬼古神行基は、本当にこの世から姿を消した。従ってこの物語も終ったわけであるが、四方木田鶴子は妖婦というのでもなく、彼女は古神のためには貞淑な忠実な側妾だった。

後に分ったことであるが、古神は或る時、吸血の快楽を知って、遂に呪うべき吸血鬼と化した。しかし彼はそのままでは吸血鬼としての生活を送ることの危険を悟り、田鶴子とよく打合せて、アルプスで遭難したように見せかけ、戸籍面から名を消したのであった。