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せんりがんそのた
千里眼その他
中谷 宇吉郎
「文藝春秋」1943(昭和18)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,478 字 · 26 页
された。そういう事件は案外深刻な影響を後まで残すもので、少し大袈裟に言えば、日本の科学界の一つの危機であった。中村先生の前に引用した文の最後にも、世間の人が信ずべからざることを信じているのは、非常に悲しむべきことである。こういうことを世人が歓迎する根本は、秩序を立てたことをやっているのがまどろしく、いわゆる六カ月速成式のことを欲するからである。秩序をすて、早く結果を得ることにのみあせると、皆が間違ったことを好むようになると述べられている。しかも恐しいことは、この種の病気は或る程度以上進行すると、もはや手をつけられないことである。そして難病をその最初期のうちに治してしまった名医は、案外余り感謝されないものである。
これで千里眼事件も一応鳧がついたのであるが、まだ問題はいくらも残っているように見える。例えば今度の事件はそれとして、昆虫に千里眼があれば、不思議は同じことであり、いつまた人間にそれが再現するかもしれない。この問題も実はもっと早く解決しているのであって、要するに馬尾蜂に千里眼の能力はないのである。少くともあるという証拠は極めて微弱で、こういう大問題の前では、問題として提供するまでもないものなのである。