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うまいち

午市

宮本 百合子

「婦人公論」1922(大正11)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,146 字 · 17 页

青空文庫

が、大きい市松模様の虫屋籠を見たり、燈火の上に高く流れる月の光りを照り返すように種々様々な提灯や行燈が揺れている店などを眺めると、彼女は何とも云えぬ興に動かされるのを覚えた。

賑やかな赤い酸漿(ほおずき)提灯に混って、七色の南京玉で拵えた吊燈籠なども見える。四隅に瓔珞(ようらく)を下げ、くくれた六角のところに磨り硝子(ガラス)をはめ、明治初年さながらの趣で、おせいの瞳に写るのである。

彼女は、七つ八つの時分を思い出して、床しい心地さえした。その頃、浅草の近くに、父方の祖母が住んでいた。そこへ泊りがけに遊びに行っては、所在なさに繰返し繰返し眺めた「東都名所図絵」という、雲母(きらら)のにおいのする大判の絵草紙の中で、彼女は初めて、このように南京玉の瓔珞をつけた燈籠をも知ったのである。

矢張り、どこかの茶屋の涼台の有様ででもあったのだろう。川を見下す涼しそうな広縁に、茶っぽい織物の大きな帯を解けそうにゆるく腰にまきつけた女が、薄ものの袖から透きとおる腕をあげて簪(かんざし)にさわりながら、くずおれている。欄干の上に、二つ三つその菱形の燈籠が下っている。