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はんしちとりものちょう
半七捕物帳
岡本 綺堂
09 春の雪解
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,208 字 · 30 页
「親分。申し訳がありません。実は小せえ餓鬼が麻疹をやったもんですから」
「そりゃあいけねえな。軽く済みそうか」
「へえ、好い塩梅に軽そうです」と、庄太は云った。「そこで親分、例の辰伊勢の一件ですが、まあ一と通りは洗って来ましたよ」
庄太の報告によると、辰伊勢は江戸町でも可なり売ったが、安政の大地震のときに、抱えの遊女を穴倉へ閉じ籠めて置いて、みんな焼き殺してしまったとかいうので、それから兎角にけちがついて、商売の方もあまり思わしくない。尤も吉原では暖簾の旧い店でもあり、ほかにも地所や家作などをもっているので、まず相当に店を張っている。当時はおまきというのが女主人で、永太郎という今年二十歳の伜の後見をしているが、死んだ亭主と違って、おまきは情けぶかい方で世間の評判も悪くない。誰袖はお職から二枚目の売れっ妓で、去年の二の酉が済んだ頃から入谷の寮に出養生をしているが、女に似合わない大酒であるから、酒毒で胸を傷めたのだろうという噂である。年は二十一で、下谷の金杉の生まれだと女衒が話した。
「いや、御苦労。まずそれで一と通りは判った」と、半七はうなずいた。「そこで、その女には情夫とか何とかいう者はねえのか。