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みなみさんのこいびと

南さんの恋人

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,630 字 · 36 页

青空文庫

あわててやってきた顔見識りの女給二人に、ただビールをあつらえ、煙草をふかし、片手で頭を支え、芭蕉の葉をぼんやり眺めた。

「昨晩、あれからどうなすったの。ずいぶん酔ってたわよ。」

すり寄ってきて、膝をつつかれたのに、南さんはただ、うん……と云ったきり、溜息をついた。

「それより、実は弱ったことがあるんだ。頼まれた話があって……登美子さんいるかい。呼んでくれない。あとで飲もう。」

二人の女給は意味ありげな目配せをしあって、素頓狂な大きな声で、登美子さあん……と叫びたてた。

これは、おれの気に入った。やはりおれが見込んだだけはある。いやしくも私立にせよ大学教授だ、多少の地位も名誉もあろう、それが、このだらしないカフェーで、多くの知人も出入してるここで、昨夜のことがあっての今日、登美子を呼んで内緒話とは、ちょっと出来すぎてる。だが、またこれでみると、昨夜のホテルの一件なんか、あとでよく分りはしたものの、乱酔のなかのこととて、実感としては何にも残っていなかったのかも知れない。然し、そんなこたあおれの知ったことか。――やって来た登美子は、染分け地に麦の大模様をあしらったモダーン趣味の金紗の着物をき、髪はお粗末な洋髪で、眼の大きな口許のひきしまった丸顔、どこかはすっぱでそして勝気で、仰向き加減に、金属性の声をしぼって映画