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なんとうをおもいて
南嶋を思いて
新村 出
――伊波文学士の『古琉球』に及ぶ――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,941 字 · 14 页
のちにきたりし貴女は王の妃なるべし)。われ開帆の期すでにさだまりて九月二十六日琉球人祭服して寺におもむき犠牲を神に供し諳厄利亜人を加護し、つゝがなく本国へかへらしめんことをいのれり。すでにひらけしほかのくにの、いつはりてなすところの別離の情よりは、よく心にてつしてかなしかりき。此質朴の善心よりいづる所なればなり。祈をはりて別をなさんとて、わが舶にきそひ来りぬ。無情のボナハルテ(悪王の名)なりとも、いかでかこれにかんぜざらんや、わが舶すでにさりし後も、ひさしく船中より手をあげて其情をしらしめり。われすでに南方へむかひおもむきしに順風にてたゞちに此島はみえずなりにけり。しかれども此土俗の深切と情の厚きは、わが諸人の心にふかくかんじ恩としたふとむなり、云々。
航海記や漂流記を読む興趣は格別であるが、この一節の訳文は、殊更それが文政天保の交の訳文だけに、一段の面白味を添えて、敢て新奇ではないが、幽婉なこの挿話を読んで情趣溢るる南島の空を偲ぶこと更に切であった。
(2)斯書の再版本(栃内氏旧蔵本)を海軍省の一室で読んだのは、今年三月の末であったか、その一三四―一三五頁に於て前記和訳文の原文は見られる。