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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页
しかし、すぐに体の重みに耐えかねたように、庇に体をぶっつけて、地上に落下してしまった。呆気にとられて、爺さんは眺めていたが、雌鶏は幾度もとんでは落ち、とんでは落ちしていた。
犯罪者がどうなったか、首尾を見るために、旦那は庭下駄をつっかけて、そこへやって来た。哀れな、痛々しい鶏の運動をひと眼見ると、旦那はそこにたちすくんでしまった。そして、自分のはじめの命令は棚にあげて、爺さんをどなりつけてしまった。
「わりゃ、なんちゅう非人情なあんぽんたんじゃ。ひとが右向けといえば右をむき左をむけといえば左を向き、ひとに言われて、していいことと、してわるいことの区別がある位のことが、わりゃその齢になってまだわからんのけ」
旦那の家人に対する態度は、万事この調子である。
だから何事でも思った通りを無遠慮に言ってのける勇気があるのは、三太一人である。三太は頭の鉢がひらいていて性質は快活であるが、ぎょろりとした大きな眼玉を、いつもずるそうにきょとつかせている。旦那が怒って
「押入れのなかに、入れてしまうぞ」
と、どなりつけたりすると、自分で押入れの襖をあけ、のこのこと先に入りこんでしまう。