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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页
と哀れな声をだしている。
旦那はひどく満悦な調子で、辺りを見まわした。
「誰か、この元気者と腕角力をとっちみい」
源吉爺さんが、早速、腰にさげていた汚い手拭いで頭に鉢まきし、浮き浮きと前にとびだした。そして、早速、両腕を牡山羊の双の角にかけた。しかし、忽ち山羊の猛襲に耐え兼ね、たじたじとなり、よろめいて手をはなした。爺さんは地べたに尻もちをついて見せ、歯のない口をぱくぱくさせながら、みんなの顔をぐるりと見まわした。奥さんや、女中たちがむせる位笑った。
「ヤの字」が得意そうに三太の顔を覗きこむ。
「こ奴は大した力もちじゃから、こんげなヨボヨボが相手になれるもんですかな」
若い衆が順次に敗退して、三人頭をかきかき引きさがったのち、旦那はこんどは三太を前におしだそう、とした。
「お前もやっちみい」
しかし、三太は恥しがって、母親の腰にしがみつき、体をかくしてしまった。間もなくやっぱり三太は皆の前に出て、こわごわと山羊の体にさわってみる。背の毛に触れても、頭を撫でても、山羊はそ知らぬ顔をして、相手にならない。思いきって角をにぎったとたん、牝山羊は「ミイ」と啼いた。