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なんぽうゆうしん

南方郵信

中村 地平

「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页

青空文庫

「生き神さまてなんかな」

漸く爺さんは手綱をゆるめて、トヨを並足にさせる。トヨは体全体が黒ずんで見える位ぐっしょり汗をかき、苦しそうに大きな息を吐いている。

「人間は死んだら誰でも神さまになりますがな」

爺さんは背で三太に答える。

「アコンは生きているうちに、神さまの家に住みなはったから、即ち生き神さまですがな」

「神さまになったらどうなるかな」

「神さまになったら、独りぼっちでもちっとも寂しゅうなかですがな。いつでも焼酒ばいっぱい引っかけた時と同んなじように、楽しか気もちで居れますがな。人間は悲しかことや、辛かことばかりじゃが、神さまになれば楽しかことばかりですがな」

爺さんは懐から汚れた手拭いをだして顔をぬぐった。

「源吉爺さんも、死んだらやっぱり神さまになるのかな」

爺さんは嬉しそうに、歯ぐきをまるだしにして、御者台からふり返った。

「なるとも。なるとも。アコン。早う神さまになりたい、と、思う時がありますがな」

畑のところどころには空地があって、そこには薩摩芋の蔓が山のように積まれている。祠のなかから三太はそれを眺め、眺め、体をゆすぶって力んだ。

「トヨよ、走れ、走れ」