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なんがをかくはなし
南画を描く話
中谷 宇吉郎
「中央公論」1941(昭和16)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,968 字 · 24 页
昨年の春から、自分では南画と称しているところの墨絵を描くことを始めた。
南画を描くなどというと、段々年をとると、油絵よりも墨絵の方が良くなるそうだねなどと冷かされることもある。しかし私の場合は、そういう趣味が枯れて来たなどという洒落れた話ではなく、もっと現実な理由があるのである。
それはこの頃のように段々忙しくなって来ては、どうにも油絵など描いている閑はなくなってしまったからである。
閑のあるなしは、時間の問題ではなくて、心持の問題だということは真理であるが、それにしても、油絵のように、正味十時間とか十五時間とかとられるのでは、どうにもやり切れない。
その点墨絵の方は大変便利であって、描きかけたら、一時間か二時間あれば大抵の絵は出来上る。もっともいくら初年生の絵描きでも、少しは構図も考えたり、物を見たりする必要はあるので、全体としたら一時間で出来上るわけではない。しかし物を見たりする方は、いくらも時間のやり繰りが出来るので、正味の時間が潰れることはないので、大変助かるのである。少し不心得な話であるが、興味も必要も余りない会議の席などに何時間も唯顔を並べているだけの時などは、卓の上にある羊歯の葉の形を見ているというような場合もあり得るわけである。