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なんばんひわもりうこんまる

南蛮秘話森右近丸

国枝 史郎

「少女倶楽部」1927(昭和2)年4月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,869 字 · 112 页

青空文庫

舟の船首へ突っ立った。

「あっ」と仰天する水夫や従者、それを制した右近丸は、スルスルと近寄って眺めたが、

「ほほうこいつは矢文だわい」

左様、それは矢文であった。矢羽根から二三寸下ったところに、畳んだ紙が巻き付けてある。

矢を引き抜いた右近丸はクルクルと紙を解きほぐすと、スルスルと開いて見た。

「南蛮寺の謎手に入れんとする者信長公一人にては候まじ、我等といえども虎視耽々、尚その他にも数多く候」

これが記された文字であった。

「成程」と呟いたが右近丸は些少驚いた様子であった。「俺の用向きを知っていると見える。俺を嚇そうとしているらしい。これは用心をしなければならない。何者がどこから射たのだろう」四辺を見廻したが解らなかった。たくさん舟が通っている。帆船もあれば漁船もある。商船も通っている。だがどの舟から射たものやら、少しも見当が付かなかった。

「さあ、舟遣れ、水夫ども漕げ」

そこで小舟は駛り出した。

その同じ日の夕方のこと――ここは京都四条坊門、南蛮寺が巨然と聳えている。その周囲は四町四方、石垣の中に作られたは、紅毛ぶりの七堂伽藍。金銀を惜まぬ立派なものだ。