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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

然し、自分は、それを強いて父が自分等二人に与えている、或は彼自身に与えている気休めだとほか受取れなかった。静穏に、淀みのない彼の書翰は、ここまで来ると、見えない曇を帯び、無理に、何ものかを意識の外に押しやったような形跡がある。

彼も心配しているのだ。それにしても、母は、どんな心持でいるだろう!

私は、更紗模様の被布(スプレッド)をかけたベッド・カウチの上に坐り、手に手紙を持ったまま、全く進退谷(きわ)まったように感じた。

○

年齢からだけいえば、母は、決して出産が不自然な年ではなかった。彼女はまだ若い。私の同胞は、少なからず夭折していた。淋しくなった我々の仲間に、更に新らしい、愛らしい赤児を恵まれることは、五つになった妹のためにもよい。私共もどんなに歓び笑うことだろう。

けれども、母は、三四年前、十五になる二男を失ってから、重症な糖尿病にかかっていた。激しい精神衝動の結果、衰弱した彼女の神経は一時に多年の疲労を現したように見えた。齦(はぐき)が弛んでまだ確かりした歯が、後から後からとずり抜け、不眠になり、瘠せて来る。一時は大きいことで鳴らしていた彼女の体も、沐浴の時などに見ると、痛ましいほど小さくなった。