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なんろ
南路
宮本 百合子
「太陽」1922(大正11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页
……お産はいつだって随分重いのよ」
「家でなさるのかしらん」
「それはそうですとも。お母様は、お産の時なんかはなお病院がお嫌だわ。……だけれども、一寸、ほんとに大丈夫なの、私。――」
少し顔色を蒼ざめ、緊張した良人を睨むように見つめて、私は、激しく涙をこぼし始めた。
「――死なれては堪らないわ」
「もちろん、尽されるだけのことは尽されるだろうが」
「それはそうだわ。だけれども、きっと死なないってどうして分って?」
私の心の中には、怖ろしいほどはっきり、五年前の七月の二日が甦って来た。ちょうど、妹が生れようとするときであった。私はもうそのとき、母が死ぬものと思い込んだ。それほど、難産であった。涼しい日で、産室の硝子窓は皆ぴっしり閉められている。そこから廊下を隔てていながら、隣室にいる私の耳には、まるで人間と思えない母の叫び声が聞えて来た。
「あ! 先生。先生」
今にも死ぬかと思う。
「苦しい! 苦しい! 早く」
自分が生きているのか死んだのか夢中のようになり、私は入れない部屋の厚い扉にぴったりと貼りつき、ぼろぼろ泣きながら立っていた。
中には、どんなことが起っているのかまるで分らない。