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なんろ
南路
宮本 百合子
「太陽」1922(大正11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页
最大の危険があるように思い、もう、駄目だと思う。辛抱が出来ないで、蒼くなって震えている女中に、
「どうするの? 若しお母様が死んだらどうするの?」
と詰めよせて行ったのを覚えている。その朝、その、平常から強情であった女中が、ひどく何か云い抗らって母を激昂させた。自分は、十六で、この女が母を殺すと思ったのであった。
六七時間も地獄のような絶叫で家じゅうを震わせてから、やがて急にぴったりと四辺が鎮り、平和な、安息が流れ出した。
母は死ななかった。もう一歩のところで生命を二つながら取りとめ、深い深い感謝を夢の心に湧立たせたのであった。
けれども、さいわい、彼女の体躯が普通より大きかったばかりに生きられたほど、多量の血液を失って、母は、後、激烈な神経障害を受けた。
あのとき、若し自分が傍にいて、煩瑣な家事を皆引受けてしなかったら、母はどんなになっただろう。
考えて見ても恐ろしい。
それが、今度は、さけ難い状態として彼女の、たとい安全には済んでも、容易でないに違いない出産の予後に控えているのではないか。
自分がいないばかりに、母を死なせるのは堪えられない。それは、私の、真実な誠意であった。